HOME雑誌BRAIN > BRAIN12年9月号
BRAIN 2012年9月号
12年8月15日発売
A4変型判
価格:本体¥2000+税
ISBNコード:978-4-287-85013-8
全ページカラー印刷

特集脳腫瘍にはどのような種類があるか
   -主な脳腫瘍の症状から診断,治療および術前・後の看護まで-

企画編集/大野喜久郎
画像をクリックするとサンプル(PDF)をご覧いただけます
目次 特集 連載 連載
 脳腫瘍というと,他の臓器のがんと違って,頭蓋骨のなかにできる腫瘍を,悪性のものから良性のものまで総称するため,まれなものも含めると多くの種類があります。さらに,頭蓋内起源(「頭蓋内原発」あるいは「原発性」という)の脳腫瘍のほかに,体のさまざまな臓器から頭蓋内に飛んできて増殖する転移性脳腫瘍もあり,なんとなく取っ付きにくいところがあるかもしれません。しかし,大部分を占める腫瘍の種類はそれほど多くありません。
 頭蓋内原発脳腫瘍は,脳の実質組織そのもの(中枢神経)から発生するものと,それ以外の組織から発生するものに分けられます。前者は,種々のグリア細胞から発生する「グリオーマ」が代表的なものであり,後者は,脳の髄膜組織から発生する「髄膜腫」,下垂体組織から発生する「下垂体腺腫」,脳神経のシュワン細胞から発生する「神経鞘腫」が主なものです。これらが頭蓋内原発脳腫瘍の実に80%以上を占めるのです。そして,後3者はほとんどが組織学的に良性腫瘍であるため,頭蓋内原発脳腫瘍の50%以上は良性腫瘍といえます。そして,診断機器の進歩と,脳ドックや他疾患の精査などで検査機会が増えるに伴って,偶然発見される良性腫瘍が増加してきました。髄膜腫や下垂体腺腫がそれに当たります。脳実質外から発生する良性腫瘍は手術による摘出で治癒させることが可能ですが,グリオブラストーマに代表される浸潤性に発育する腫瘍は,摘出手術のみでは治癒させることはできず,その他の補助療法が必要です。
 一方,最近増加傾向のみられる脳腫瘍として,“21世紀の脳腫瘍”ともいわれ集学的治療を必要とする「転移性脳腫瘍」と「脳原発悪性リンパ腫」が挙げられます。脳原発悪性リンパ腫は,高齢者の脳実質内腫瘍では,グリオーマのみならず転移性脳腫瘍とともに鑑別診断に真っ先に挙げるべき腫瘍です。いまだ予後不良であり,今後,原因や治療法の研究が待たれるところです。
 また,小児に発生する腫瘍は代表的なものがいくつか挙げられますが,乳幼児期に特徴的な腫瘍もみられ,一概に小児の脳腫瘍と括ることはできません。症状,年齢,画像などで総合的に診断を行い,適切な治療を行います。
 以上のように,脳腫瘍は,まれなものを除けば,その症状,画像診断,術前の検査,手術術式,術後管理やケア,後療法,経過観察などは,脳神経外科の進歩により一定の戦略ができているので,それほど構えて治療にあたる必要はありません。とくに,良性腫瘍の手術技術の向上には目を見張るものがあります。しかし,まだ解決できていないことがあるのも事実です。悪性グリオーマの治療は,この半世紀あまり目立った進歩がなく,悪性リンパ腫と同様に今後の大きな課題です。また,小児の脳腫瘍でも生存率が著明に改善している髄芽腫やジャーミノーマでは,放射線化学療法の後遺症などが現実的な問題になっています。多くの場合,手術や補助療法のみでなく,その後における,患者とその家族に対する精神的なケアも重要になってきます。
 本特集により,脳腫瘍という病気をさらによく理解して,日常診療に役立てていただければ幸いです。
大野喜久郎
(東京医科歯科大学 理事・副学長,同大学大学院 脳神経機能外科学 前教授,本誌編集委員)
特集
1. 成人の脳腫瘍にはどのようなものがあるか/成田善孝
2. 小児期にみられる脳腫瘍/隈部俊宏,冨永悌二
3. 手術で治せる主な良性脳腫瘍(髄膜腫,下垂体腺腫,聴神経鞘腫)/青柳 傑
4. 手術だけでは治せない悪性脳腫瘍(グリオーマ)とその補助療法/田村 郁
5. 転移性脳腫瘍と近年増加している脳原発悪性リンパ腫/北井隆平
6. 成人脳腫瘍患者の術前・術後の看護ケアのポイント/落合聖乃
7. 小児の脳腫瘍の術前・術後の看護ケアのポイント/角田由美子
8. 脳腫瘍の診療で留意することは?患者や家族に対する精神的ケアやよくある質問と対策(1)看護師の側から
 /山下和美
9. 脳腫瘍の診療で留意することは?患者や家族に対する精神的ケアやよくある質問と対策(2)主治医の側から
 /河野能久
連載
・ニューロナースの疑問に答える! 脳神経疾患画像診断レクチャー
 第11回 悪性リンパ腫・転移性脳腫瘍
 執筆・企画●土屋一洋
・エッセイ●こころとからだ
 第6回 バッドニュースの伝え方
  内田 都
・主要症例で学ぶ ナースが知りたい! 脳神経外科疾患の病態・治療・術後ケア
 第13回 慢性硬膜下血腫に対する穿孔血腫洗浄術
 執筆●氏福健太 企画●林 健太郎