特集●消化器疾患と腸内細菌叢
企画編集 | :内藤裕二 |
---|---|
発行 | :2025年6月 |
判型 | :A4変型 |
頁数 | :96 |
ISBN | :978-4-287-92037-4 |
定価 | :4,400円(本体4,000円+税10%) |
特集にあたって
このたび,本誌において「消化器疾患と腸内細菌叢」をテーマとした特集号を企画し,関連分野の第一線で活躍されている13名の専門家の先生方に,最新の知見をまとめた総説をご執筆いただきました.心より感謝申し上げます.
ヒト腸内には100兆個以上,重さにして1〜2kgに及ぶ微生物が生息しており,私たちの健康維持あるいは疾患の病態修飾において,きわめて重要な役割を果たしています.近年,シークエンシング技術やメタゲノム解析,さらには質量分析計による代謝物分析の進展により,腸内細菌叢の構成とその機能が明らかになるにつれて,消化器疾患を含むさまざまな疾患との関連性が次々と報告されるようになってきました.最近,報告されたクローン病発症に関わる前向きコホート研究においては,発症に大きく関わる因子として宿主ゲノム因子ではなく,環境要因,とくに食と密接な関わりのなかで形成される腸内細菌叢が高リスク因子として報告されています.腸内細菌叢の関連ではなく,腸内細菌による因果関係が証明されつつあるのです.
本特集では,食道から大腸,さらには肝胆膵に至るまで,消化器各領域における腸内細菌叢の関与について,最新の知見を13のテーマで紹介しています.
具体的には,Fusobacterium nucleatumと食道癌,ピロリ菌除菌後の胃内細菌叢の変化,PPIなど胃酸分泌抑制薬が腸内細菌に与える影響,機能性ディスペプシアにおける十二指腸粘膜関連細菌叢の役割,過敏性腸症候群と回腸末端粘膜関連細菌の関連性など上部消化管疾患における腸内細菌の役割に関する話題から始まります.続いて,炎症性腸疾患における注目すべきアプローチとして,潰瘍性大腸炎(UC)に対する糞便移植(FMT)やUC再燃と腸内細菌叢の関係,さらにはClostridioides difficile腸炎とFMTの現状など,腸内細菌叢を標的とした治療戦略に関するレビューが続きます.
また,近年注目を集めているNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と腸内細菌叢および大腸癌とFusobacterium nucleatumの関連についても,最新の研究成果と臨床的意義が詳述されています.膵疾患の領域においても,自己免疫性膵炎や膵癌と腸内細菌叢の関係性が示唆されつつあり,腸内環境が全身疾患に波及する可能性について新たな視点が得られる内容となっています.さらに,化学療法に伴う副作用と腸内細菌叢の相互作用という,がん治療の質向上に資する重要なトピックについても取り上げています.
本特集号が,腸内細菌叢と消化器疾患の関係についての理解を深め,今後の研究や臨床応用の一助となれば幸いです.腸内環境の改善による疾患予防や治療,さらには個別化医療への展開も視野に入れ,今後ますますこの分野が発展していくことを期待しています.
最後に,臨床・研究に繁忙ななか,執筆をご快諾くださった先生方に深く感謝申し上げるとともに,本特集を手に取ってくださった読者の皆さまにとって,本号が新たな知見や着想を得る契機となることを願っています.
目次